「ドローンの哲学 遠隔テクノロジーと〈無人化〉する戦争」 序章と第1章のメモ

 

ドローンの哲学――遠隔テクノロジーと〈無人化〉する戦争

ドローンの哲学――遠隔テクノロジーと〈無人化〉する戦争

 

 

序文

 

「操縦士なしの航空機システムの真の利点は、脆弱性を発揮することなく、力を発揮することにある」。「力を発揮する」とは、ここではとりわけ軍事力が国境を超えて展開するという意味で理解すべきだ。

 

ドローンの特殊性は、〜人が指をかけている引き金と、弾丸が飛び出る大砲とのあいだに、いまや何千キロメートルもの距離が挿入されることになる。武器と標的のあいだの射程の距離に、オペレーターと武器のあいだの遠隔指令の距離が付け加わるのである。

 

「未確認暴力物体」としてのドローンが引き起こす相互関係の消失という事態。「(地理学的・存在論的カテゴリーとしての)領域や場所、(倫理的カテゴリーとしての)美徳や勇敢さ、(戦略的であると同時に法的・政治的カテゴリーとしての)戦争ないし紛争といったカテゴリー」に「激しい動揺がもたらされることになる」

 

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第1章 技術と戦術

 

①過酷な環境での方法論

 

「空間は過酷な区域と安全な区域の二つに分割される」。遠隔操作の技術によって「生きた身体とそれを操作する身体は分離」することができ、後者の機械化が促進される。

今現実世界で起きていることは、当初予測されていた「マシン同士の試合」、「兵士なき戦争、犠牲なき衝突〜というユートピア」とは全く別の様相を呈している。「危険な物質」と判断された人物が「安全区域」場に設置されたスクリーンに映し出され、遠隔操作されたマシンにより殺害される。「非対称戦争は徹底化され、一方的な戦争になる。というのも、もちろん人はそこであいかわらず死ぬのだが、ただ一方の側だけだからだ」。

 

②〈捕食者〉の系譜学

 

第二次世界大戦期→軍事訓練の標的としてのドローン
・ペトナム戦争→偵察用ドローン
・第4時中東戦争→地対空ミサイルへの囮としてのドローン
・21世紀→対戦車用ミサイルを装備したドローン


③人間狩り(マンハント)の理論的原理

 

「対面し合う二人の戦闘員」というパラダイムから「前進するハンターと、逃亡し身を隠す獲物」というパラダイムへ。
探し出されるべきは、もはや「社会的ネットワークのなかに挿入された結節点ないし「ノード」」となり、収集された情報から予測される結果のみである。

 

というのも、軍事化されたマンハントの戦略は、本質的に予防的だからだ。〜潜在的なアクターを早めに排除することによって、脅威が忽然と出現するのを予防することにある。

 

④監視することと壊滅させること

 

ドローンのイノベーションの原則

(1)持続的な視線ないし恒常的な監視の原理
(2)視野の全体化ないし総覧の原理
(3)全体的アーカイブ化ないし生活全体の映像化の原理
(4)データ融合の原理
(5)生活形態のパターン化の原理
(6)異常の探知および予防的予期の原理

 

⑤生活パターンの分析

 

「識別特徴攻撃」→個人の身元情報が特定できない場合でも、生活パターン(どのような場所に行きどのような人と会うのか等々)によって攻撃対象に認定される

 

しかし、この問題は〜蓋然的な指標を変換して構築された映像を、合法的なターゲットという確かな地位へとしかるべく変換する際にどのような能力が要求されるのか、という点にある

 

二〇一一年三月一七日、パキスタンのダッタ・ケルに集まった人々の集団が、「彼らの行動はアルカイダに関連した戦闘員の行動様式に対応している」という根拠で、アメリカの攻撃によって殲滅させられた。彼らの集まり方が、テロリストの行動の疑いがあるものとしてあらかじめ規定されたマトリックスに対応していたのだ。しかし、空から観察されていたこの集まりは、実際には、地域の共同体で諍いが起きたときにそれを解決するために召集されるジルガという伝統的な集まりであった。この攻撃で命を失った民間人の数は一九から三〇人と推定されている

 

⑥キル・ボックス

 

「キル・ボックス」、それは特定の地域のとある空間上に設定された攻撃対象領域である。スクリーン上で「開いたり、動作したり、凝固したり、閉じたり」するキル・ボックスを観察しながら、「紛争地域は、柔軟かつ官僚主義的な様態で作動する多数の一時的なキル・ボックスへと細分化された空間のようになる」。

 

①軍事的紛争区域は、小型化可能な「キル・ボックス」へと細分化され、理想的には、獲物としての敵の身体だけをめざして縮減されるー身体が戦場のようになる。〜②しかし今度は、このような可動式の微小空間は、〜どこにあったとしても標的にすることができる〜世界が狩猟場となる。これがグローバル化ないし均質化の原理である

 

それにより、元来「国際法」や「戦時法」に必要とされていた「戦闘領域・地域」という概念の無意味化である。

 

もしかすると、法の根本的な目論見は、暴力の合法的な行使を地理的に限定するために、暴力を囲い込むことにあった、と想起すべきときなのかもしれない

 

⑦空からの対反乱作戦

 

戦闘を優位に進めるために目指されてきたのは、「敵対する戦闘員の意志それ自体を無化する」ことである。だがその目的のもと実施された空爆という攻撃方法で明らかになったのは、「「そうした攻撃は、爆撃を受けた地域の住民たちを完全に激昂した状態で家から追い出す。彼らはそうした攻撃を「卑怯」〜と考え、〜近隣の氏族や部族のもとへと散らばっていく」ことであった。

20世紀後半から現在へと途切れることなく続くこのような負の連鎖に対しドローン推進者は、「古くからの悪癖を免れることに成功したと主張している」。

 

ドローンは高度なテクノロジーに基づく道具なのだ。視線の持続性と標的化の精確さという二重の革命によって〜古くからの反論は歴史のゴミ箱のなかに放り込まれることになったのだ。

 

かつての空からの兵力の戦術的な限界は、それが「敵の徴兵を相殺できるほど早く反乱者を殺害ないし除去することができない」点にあった。〜今日ついに、速度競争に勝利し、個々人の徴兵と少なくとも同じくらい素早く彼らを除去できる能力を手に入れているかもしれないということだ。

 

新たに徴兵された新兵が現れるやいなや彼らを定期的に無力化することがいつでも可能となる〜。定期的な剪定を新たに始めればよいのだ。

 

ドローンを「反テロリズム」の特権的な武器だとする賛同者たち〜が明記し忘れているのは、それは同時に勝利することもない戦争だということだ。そこに描かれるシナリオは、出口が不可能になった、際限のない暴力というものだ。


脆弱性ヴァルネラビリティ

 

・ドローンは飛び回ることのできる空間を必要とし、安定した電波制御のもとで正しく動作する。であるならばドローンの脆弱性とは、それらの要素を妨害できる環境・技術によって実現可能となる。

・「アマチュアのドローン」という問題