「レンマ学 第5回 現代のレンマ学へ」 中沢新一 群像2018年6月号 走り書き

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群像 2018年 06 月号 [雑誌]

群像 2018年 06 月号 [雑誌]

 

 

短いまとめ

 

あらゆる事物・事象の根底で働く純粋レンマ的知性に時間性が介入することによっておこるレンマとロゴスへの分岐。→①分岐

その過程を四つに分け考察され→②四法界

その現代的応用を分子生物学においておこなう。→③生物における楼閣

 

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長いまとめ

 

①分岐

 

純粋レンマ的知性は「あらゆる生命現象~の根底で働いて」おり、「すべての生命の中で、さまざまな発達段階のレンマ的知性が活動している」。(p234)

それは原核生物からから始まり、菌類、植物、動物、人間に至るまで及んでいる。

 

大乗起信論』においては、「ロゴス的知性そのものが、レンマ的知性の変異体」とされ、「変異体が出現する以前の純粋レンマ的知性を「如来像」と呼」んでいる。図式化すれば、

 

                           レンマ的知性(真正体)

                          ↗

如来像    → (時間性の介入) →アーラヤ識  

(純粋レンマ的知性)           (心的現象)  ↘

                           ロゴス的知性(変異体)

 

 

となる。(p235)

相即相入しあう法界、純粋レンマ的知性に時間が持ち込まれることにより、非局所的なレンマ的知性と局所的なロゴス的知性に分化してしまうことになる。

 

※《②四法界 ⅲ「理事無碍法界」》の考察をふまえれば、上図で表された

「純粋レンマ的知性」と「レンマ的知性(真正体)」は

「法界」と「言語」と言い換えることも可能だろう。

 

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②四法界

 

中国華厳教では法蔵の後、澄観(738~839)が法界の探究を押し進めている。

 

澄観は法界が四種の異なる様態を含んでいることを示した。「四種」は法界を構成する最小数の基本原理を示すもので、じっさいは四種の異質な様態がたがいに関係しあうことによって、法界には具体的運動が発生している。(p236)

 

「四種法界」ないし「四法界」:ⅰ「事法界」

               ⅱ「理法界」

               ⅲ「理事無碍法界」

               ⅳ「事々無碍法界」  

 

 

ⅰ「事法界」

「たえまなく現象の生起がおこなわれ」、「個々の事物がたがいに差別をもって対立している」ロゴス的な様態。(p236,237)

 

ⅱ「理法界」

事法界において分離・対立していた個々の事物が、「じつは平等にして一如であること

」、これが理法界の様態でありレンマ的知性に対応している。(p237)

 

ⅲ「理事無碍法界」

上記のような「事と理が法界では、相即相入して、自在に交徹円融しあっている」様態を理事無碍法界という。(p237)

 

それを生命現象で例えるなら、あらゆる生命は「自己を外界から差別する膜を持ち、~自己を複製している」。これは「事法界の様態をとおして、生物個体が現象しているのである」。一方生命はその活動において、「栄養物質を取り入れ、廃物は膜の外に捨てられる。このようなことが可能であるためには、自己と外界との平等を認識する理法界の様態が、生物の中で働いているのでなけれなならない」。(p238)

 

また、人間の経済活動においては「商品」の名のもとに、個々の事物が「価値」において「平等」と認識され「交換」される。ただそれはあくまでロゴス的知性が「「抽象」によって事法界の差別相の奥に、一元的な平等相を認識」し、「不要となる差別相は見ないように捨象」するのであって、二次的なレンマ的知性にすぎない。(p237)

 

よりレンマ的知性が働いているのは言語においてである。

様々な事象や知覚を分類しまとめあげることで、多様なカテゴリーごとに語彙がつくられ、「句構造(統辞構造)」によって配列される。「その普遍構造こそ、レンマ的知性の変異体として理事無碍法界を充填している、ロゴス的知性の実現形にほかならない」。(239)

そして、「そのロゴス軸に交わるようにしてレンマ的知性の軸が嵌入している。カテゴリーに分別・分類された語彙と語彙の間に、縁起的連結を生み出す「喩(アナロジー)」の力が働くのである」。(p239)

相即(メタファー)と相入(メトミニー)が語彙の間に発生することで日常言語や芸術言語、詩的言語が生まれることとなる。(p239)

 

人類の言語はこのようにロゴス軸とレンマ軸の組み合わせとしてつくられている。言語が世界を分別・分類しようとするときには、強くロゴス軸が働きだすが、「ゆらぎ」をもたらす喩の作用がただちに嵌入してきて、言語表現には人類の言語特有のふくらみがもたらされる。理事無碍法界という心的様態にレンマ的知性の働きが強く作用するこのとなかから、現生人類(ホモサピエンス)の言語は生まれてきた。(p239)

 

 

ⅳ「事々無碍法界」

これは先に述べた「如来蔵」、純粋レンマ的知性の様態といえるだろう。
 
すべての事象や事物は空から生起して有に転じるものであるから、この空有合成の構造をもってたがいに相即相入を果たし、重々無尽に自在な交通をおこなう。そのために法界に生起するあらゆる事象・事物が、法界を充填している縁起=レンマ的知性に相応した動きにしたがうのである。(p241)

 

さらには、ライプニッツにおけるモナドが事々無碍法界と多くの共通点を持つこと、ライプニッツ微積分学とは別の方向へと事々無碍法界的な数論が展開されたことが加えて挙げられている。

 

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③生物における楼閣

 

法界、無限の楼閣が相即相入し合う縁起の世界、これを具体的な次元でいうならば、「生物学者リン・マーギュリスらの「細胞の共生進化」説は、そのための絶好の事例」となる。(p244)

真核生物は原核生物からの進化の過程で、「別々な生物として発展していた生物を自分の中に取り込むことによって、新しいレベルの生命体へ進化を遂げた。すなわち、酸素呼吸の能力を持つミトコンドリア光合成によって太陽エネルギーを変換してATPにする能力を持つ色素体、運動能力に優れた波動毛(鞭毛)など、~自分の中に取り込んで円融させることによって、~進化がおこった」のである。(p244)

このような様は「きわめて華厳学的な現象を示して」おり、なおかつ「分子生物学的な進化論の核心部分に触れて」もいる。(p244,245)

 

理事無碍法界である生命は、~進化をとげながら、さらに高度なレベルの全体に円融していくのである。このようなレンマ的発想が現代の生命論には求められている。(p245)

 

こうして私たちは、現代レンマ学の構築を可能にする、新しい思考平面に歩み出ることができた。この思考平面には、いままで科学的精神をもって構築される「学」の体系は存在しなかった。そこに私たちは「レンマの動く楼閣」を創りだそうと思う。(p245)