2021年3月に読んだ本

 

  前半の、話し言葉(言葉の発音)の音素は自然界で発生する音素と相関しているという議論は、前作『ヒトの目、驚異の進化』における文字の形態素が自然界に見いだせる形態素と相関している議論と同様、納得できた。ただ後半の音楽の起源については、どうも「自然界の音の模倣」という結論ありきに感じた。

 疑問文の語尾が上がるのはドップラー効果の模倣、は良いとしても全体としては仮説も統計データも「音楽も自然界の模倣」と言いたいために構成されている感を拭えない。

 著者が参照している音楽のほどんどがクラシック音楽であって、そこには文化的に蓄積された音楽理論による「人工味」が濃厚にまぶしてあり、さらには平均律という人間が音楽を「創造」した時点では確実に存在しなかった前提によって規定されている、ということは統計を取る上で重要だと私は考えるからだ。

 「リズム」が音楽の最もプリミティブな要素である、という著者の仮説は正しいと私も思うので、全体的にその原理的な考察を貫徹して欲しかった。

 

 

 

地球の誕生からノイズキャンセリング・ヘッドホンまで、「音」にまつわるあらゆる分野を解説する充実した内容。
聴覚障害者の社会的困難、波としての音の物理的メカニズム、耳の解剖学的しくみ、音を聞き取る認知的な基盤、ピタゴラス音律から平均律へ、音声記録メディアの歴史、デジタル・オーディオの構造、音響処理技術 等々。