2020年9月に読んだ本

 

 

 

 

パライゾ

パライゾ

 

 

エクセルのフィルター機能を使って、「ある属性」の人のみを表示した世界、という説明がぱっと浮かんだ。逆に言えばその属性以外の人々を全て「以下同様」とみなすことで、従来のまま取り残された「ある属性」の人だけが異様なまでに世界の中で浮かび上がってくる。

そこは希望も絶望も勇気も愛情も贖罪も何もかもが剥ぎ取られ、ただそこに「ある」ことしか残されなかった世界。あらゆる意味が一瞬にして奪われてただ存在することしかできない人。それでも考えたり遊んだり、変わらず愛し続けたり悩み続ける人の姿が、私たちと遠いような近いような、こちらの遠近感の狂わせながらも近づいてくるような、そんなお話でした。

 

想像ラジオ (河出文庫)

想像ラジオ (河出文庫)

 

 

何様(新潮文庫)

何様(新潮文庫)

 

 

 

 タンザニアから香港やってきて、天然性や中古車の輸出入などによってビジネスを行うインフォーマル経済の担い手たちと行動を共にした著者のルポルタージュ/エッセイ。

行き当たりばったりで適当な毎日を送っているように見える彼ら彼女らの行動原理は、ただ純粋な資本主義的ロジックに頼るのではなく、贈与経済や分配性を適度にミックスしながら持続可能な資本の流れと互酬性の維持を実現している。

「ついで」による適度な互助精神がコミュニティ内に共有されていることで、負い目を感じさせないような気遣いとともにセーフティネットとしての機能も果たししている。

このように、他社の「事情」に踏み込まず、メンバー相互の厳密な互酬性や義務と責任を問わず、無数に増殖するネットワーク内の人々がそれぞれの「ついで」にできることをする「開かれた互酬性」を基盤とすることで、彼らは気軽な「助けあい」を促進し、国境を越える巨大なセーフティネットをつくりあげているのである(p86,87)

 

あと、

カラマたちと暮らしていると、組合活動への実質的な貢献度や、特定の困難や窮地に陥ることになった「原因」をほとんど問わず、たまたまその時に香港にいた他者が陥った状況(結果)だけに応答して、可能な範囲で支援するという態度がひろく観察される(p79)

という部分を読んで、

イスラムの怒り (集英社新書)

イスラムの怒り (集英社新書)

 

この本で言われていたことをふと思い出した。

 

イスラーム圏で経験した、無茶な車の運転をするムスリムが多いことから、

結論として、ムスリムは、私たちや西欧人に比べて、「因果律」というものを信じていないのではないか、と考えるに至った。(p206)

 

ムスリムのさまざまな日常生活においても、(西欧社会と比べて)神の絶対性の基盤が確固としてある故、科学的根拠を理解はできても行動には伴うまでには至らない。そういう風に著者には見えると述べられていた。

 

チョンキンマンションの住人たちも当然ムスリムがおり、イスラーム文化圏で広く共有されている、他者の内面に踏み込まずにその行動や結果を見て判断する姿勢が、資本主義一辺倒にならない、持続可能なインフォーマル経済活動を支えているのではないか、なんて思う。

 

 

テーマパーク化する地球 (ゲンロン叢書)

テーマパーク化する地球 (ゲンロン叢書)

  • 作者:東浩紀
  • 発売日: 2019/06/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

 

 ロシア文学関連

トゥルゲーネフ伝

トゥルゲーネフ伝

 

 

仕事関連

タスキメシ (小学館文庫)

タスキメシ (小学館文庫)

  • 作者:澪, 額賀
  • 発売日: 2019/11/06
  • メディア: 文庫
 

 

沖晴くんの涙を殺して

沖晴くんの涙を殺して

  • 作者:額賀 澪
  • 発売日: 2020/09/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)